「雌蛭」(横溝正史)

金田一耕助が普段とは違った動きを見せる

「雌蛭」(横溝正史)
(「七つの仮面」)角川文庫

「アパートの部屋に置き忘れた
ハンドバッグを
取ってきて欲しい」という
不思議な依頼を受けた
金田一耕助は、
変装してその部屋に侵入する。
そこには硫酸で顔を焼かれた
男女の死体があった。
そしてその部屋を訪ねてきた
男がいて…。

本書「七つの仮面」は、昭和50年代に
横溝正史ブームが巻き起こった際、
単行本未収録作品を集めて
出版された作品集です。
「落ち穂拾い」などと
言ってはいけません。
収録されている作品は
面白いものばかりです。

本作品の味わいどころ①
変装する金田一

冒頭でいきなり
金田一耕助が変装します。
普段は「皺だらけの絣の単衣の着物と
羽織によれよれの袴」という
冴えない和服姿なのですが、今回は
「鼠色のズボンに
派手なチェックのアロハ」
「ベレー型のハンチング帽」
「べっ甲縁の眼鏡」という、
らしからぬ服装を披露します。
どう考えても怪しい依頼を
受けたのですから、変装でもしないと
まずいと思ったのでしょう。
金田一がこのような変装をするのは
珍しいことです。

本作品の味わいどころ②
事件に関わりすぎる金田一

不法侵入罪の危険を冒してまで
依頼人の要望を実行しようと
するのですから、
いささかやりすぎの感があります。
そこが本作品の魅力でしょう。
もちろん事件が起きています。
金田一は第一発見者。
警察に匿名で通報し、
捜査に協力もするのですが、
現場から証拠品を勝手に持ち出して
知らぬふりを決め込みます。
金田一がこのような形で
殺人事件に絡むのも珍しいことです。

本作品の味わいどころ③
自分で動かない金田一

それだけ深く関わりながら、
今回の金田一は
自分で動こうとしません。かわりに
多門六平太なる人物を登場させ、
自分の助手として
器用に使いこなしています。
金田一がこのように助手を使って
横着を決め込むのも珍しいことです。

もっともこれは終末で
犯人との格闘場面があるため、
小柄でやせっぽちの金田一では
心許なかったからでしょう。
助手が大活躍します。

本作品の味わいどころ④
しっかり謎を解く金田一

硫酸で顔を焼かれた死体、つまり
横溝得意の「顔のない死体」です。
これは被害者が
一体誰か分からないということであり、
そこに謎が隠されているのです。
金田一はその謎を解き明かします。
これは珍しいことではありません。

金田一耕助が
いつもとは違った動きを見せる本作品、
ぜひご一読を。

(2020.4.19)

EllWiによるPixabayからの画像

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